ドルフィンウォッチング

観劇や推しの活動の個人的なメモ。

2017/12/10 ReLOVE マチソワ

THE YASHIRO CONTE SHOW「ReLOVE」2017年12月7日(木)〜17日(日)紀伊國屋ホール

日程:2017年12月10日
会場:新宿 紀伊國屋ホール
開演 14:00 / 18:00
終演 16:00頃 / 20:00頃(休憩なし)

出演者:平野良長井短、小西成弥、押見泰憲、魚地菜緒、西井万理那(生ハムと焼うどん)、デッカチャン、ピクニック、加藤啓、小林健一、六角慎司、ヒラノショウダイ、兵藤天貴、山田賢太郎、グリン葛原麻世、グリン穴見きなこ、MITSU、MIZUKI、Riho、麻菫華(敬称略)

世界から経済制裁を受けて追い込まれた小国の王子が死んだ。
恋に恋しまくりの若き醜い姫だけが残ったから城の中はカオスの渦へ!
初めての失恋で心中乱舞な姫を中心に、若い男女の恋愛関係・存続の危機にある王国・
人類のテクノロジーの進化と寿命延長と愛の在り方、その全てがネクストステージに運ばれていく!

 平野さんが演じたのは主人公であるミロク。
 その国では10年に一度の天才と言われ、海外留学を許された貴重な人材です。
 凱旋したミロクにカーマ姫が一目惚れするところから物語は大きく動くのですが、それまでが長い。
 前説で「彼はしばらく出てこないけどモヤモヤしないでください」と説明されるくらい出てこないです。とはいえそれまでも普通に面白いんですけど。
 こういう説明とか実物の風船割ったりとかが「コント」と称しているゆえんなのでしょうが、内容としてはきっちり演劇なのでタイトルで損してる感も否めません。個人的には今年観た中で一番舞台らしい舞台だと思ったくらいです。セットも映像も凝っているし場面転換にストレスもないし、演技にダンスをかぶせて表現するところなんかはすごく見ごたえがあって集中して観られるように作ってある印象でした。


 ミロクは白を基調にやわらかいベージュも混じったふんわりとした衣装で、まるで王子様のようでした。薄手のズボンの下には白タイツ、足元もベージュでハイカットのスニーカー。かわいい。
 爽やかな笑顔、柔らかな物腰、美しく切り揃えられて清潔感のある髪型、すべてが整った26歳の好青年。
 ただし童貞です。
 そして小西くん演じるダムスミスとは兄弟でした。最高でした。
 全身黒ずくめで頑なな弟と柔和な兄との対比が最っ高に麗しかったです。顔面偏差値高い。


 登場人物はみんな「愛」を持って生きています。
 そして激しい主張と思想でおたがいを殴り合います。観客も巻き添えになって殴られ、殴られ続けて頭がぼーっとしているうちに「愛ってなんだ?」と考えてしまうあぶない舞台でした。おもしろかったです。
 台本を買ったのですが、やはり文字だけだと物足りないし前説部分などはだいぶ変わっているようです。
 公式から「10日から内容が少し変わります」というアナウンスがあり、私が観たのは10日なのでそれ以前のことはわからないのですが、観た感じではスムーズだったのでなんらかの改良がされたのでしょうね。
 そしてその後さらに改変されたようなのですが、私としては10日に観た内容で値段に対して十分満足できるものだったので、今回はそれについてはどうこう申し上げません。


 物語は、主人公であるミロクが童貞=子供の頃の一目ぼれの相手をずっと引きずっている、というのがポイントです。
 彼女のことだけを想い続けて貞操を守っているのですが、それを「こじらせてんなー」とバカにされても「逆ですよ。こじれたことがないんです」と堂々としている筋金入りの童貞っぷり。
 このタイプの童貞は新しいですね!
 過去に童貞といえば、空男ちゃん(アメリカン家族/ヒキコモリ童貞)、昭島くん(ミニチュア!!/地下アイドルTO童貞)、薫(源氏物語/仏教奥手童貞)、あとハンサム落語に何人かいたと思うのですが、そのどれとも違うネアカ*1童貞です。
 あ、でも想い人を前にしたときの挙動のヤバさはかなり童貞度高かったですね。どっちのミロクたんもかわいいですけどね。本人どう考えてモテる人生しか歩んでないのにどうしてあんなにあやしい動きができるんでしょうか。(※褒めています。)


 王国ではなにより愛を重んじていますからミロクは優秀な国民です。
 スローガンは「王家に愛を、自分に試練を、敵に慈悲の心を」
 マグロにアボカドを。エビにサクサクの衣を。
 あの場面のミロクたんは最高にエクセレントでした。

 シャリ王と直属の三大老(軍事・外交を司る黒大老ソンソン、愛・法の白大老Aフロム、経済・科学の青大老トート)が国を動かしています。三大老は対立しており、特にフロム以外の二人は一見すると愛を軽んじていますが、実はそれぞれ独自の愛でもって行動しているんですね。それが話をややこしくしているし面白くしています。

 シャリ王には二人の子供がいましたが、アイゼン王子は死んでしまい、王位継承者はカーマ姫のみです。妃はいません。姫の王位継承に不安のあるソンソンとトートは結託して、王に子作りさせるために少女をあてがおうと企んでいます。
 カーマ姫はすごいブスです。
 でも姫のことをブスというと即死刑になるので誰も言いません。なので姫は自分のことはブスとは思わず、ブスという単語すら知りません。
 この「ブス」がメイクでコミカルかつ誰も傷つかないように表現されていたのですんなり受け入れられました。
 しかも外見だけでなく性格的にも救いようのないブスです。他者の容姿を貶め、自分を可愛がり、気に入った相手にはすぐに告白して誰かの彼氏であろうと奪い取ります。
 でも絶対にそれを指摘したり笑ったりしてはいけない緊張感があり、余計にブスさが際立っていました。
 大国に囲まれた貧しい国ですが軍事的挑発をやめず、経済制裁を受けていて非常に苦しい状態なのですが、姫はお気に入りの彼氏(最初はダムスミス、次はサカイ)と「風船遊び」とか「龍の玉遊び」とか「目隠しごっこ」とかしながらのんびり幼稚に暮らしています。


 ミロクに出会ったカーマ姫はすぐ告白しますが、実直なミロクは心に決めた人がいるという理由で断り、牢屋行きになってしまいます。その後は姫の教育係として世話をすることになり、迫るカーマ姫をミロクはやんわりかわします。
 なんやかんやあって、ミロクの一目惚れの相手は結局姫だと判明します。
 おまけに世界一のブスと言われた顔も王族のしきたりとしてのメイクが原因で、素顔はとても美しいのでした。
 このあたりご都合主義と言えばそれまでなのですが、そんなことよりも愛に目覚めた二人のやりとりが可愛くて、なによりミロクの愛の表現がすごくみずみずしくて最高に楽しいシーンに仕上がっていました。
 で、インドです。
 姫と両想いになって「世界が光ってる」と感じたミロクの気持ちが、インド映画さながらのダンスになって表現されます。コミカルに踊る推しは久しぶりですがやっぱり最高。指先と視線がセクシー。かわいい。できればもっと大きいところで歌って踊ってほしい!

 姫もこれまでの愚行を恥じて一件落着かと思いきや、愛を一番に重んじていたはずのフロムが王を殺し、姫をも手にかけようとします。
 フロムによれば、「愛」は命を繋いでいく行為。人間が結婚して子供を産んで人類を繋いでいくために「愛」があるのに、不老不死(に近い存在)の姫は「愛」を否定する存在。だから姫には愛がない。彼の信じる愛を守るために姫を殺す。
 逆にこれまで愛を軽んじてクローン人間(=セブン。王にあてがった少女)をつくることさえ厭わなかったトートが、姫のことを、人類が「愛」から解脱するために必要な存在だとして殺させまいとするのがおもしろい。この対比、鮮やかですね。思わず唸りました。愛ってなんなんだ?って楽しく混乱することができます。

 ちなみにセブンは元々ソンソンの亡き娘リンリンの細胞からできています。この対決時、すでにソンソンは死んでいるのですが、彼の愛とは国を守ることでした。国を絶やさないために機密情報を流出させて他国とのバランスを取り、王と子を成させるために愛娘の細胞を提供した彼の行為もまた「愛」です。
 でもそのせいで、かつてリンリンの恋人だったダムスミスは深く傷つき、セブンを自らの手で殺してしまいます。愛が悲しみを連鎖させていきます。こわいですね。愛ってなんなんでしょうね。

 ラストシーンでミロクは姫をフロムから守りながら、自分の中に愛が芽生えたから姫にも愛がある!と熱く主張します。ここの演技の爆発力がザ・平野良という感じでとにかく最高なんですね。熱いです。スーパーサイヤ人のオーラみたいなものが見えたんじゃないかなってくらいの熱演でした。

 結局ミロクは、姫は、愛はどうなったのかは、観客にゆだねられる形で終わります。

 死ぬことが愛ならば、やっぱりミロクとカーマ姫は死んでしまったのだろうと思います。最後ミロクは重傷でしたし、愛に目覚めてからのカーマ姫はなにかに苦しんでいましたから不老不死の細胞が機能しなくなったのかもしれません。
 それでも最後にキスした二人は幸せで、一瞬だけ最高に幸せなんですよね。
 ラストシーンはいつだってハッピー。*2
 きっと二人とも死んじゃうからハッピーエンドじゃないんですけど、でもそこで判断すれば人生って一人残らず全員バッドエンドなので、あれはハッピーエンドと言うことにしたいです。
 人生とは愛。愛とは死。つまり人生とは死。愛を肯定することは死ぬことなんですね。人生って不条理ですね。

 そしてカテコの笑顔とダブルカテコのダンスで「よかった悲しい人なんていないし貧しい王国なんてどこにもなかったね、つらい物語は終わったね」と笑いながら泣けるのに、不幸な国はこの世界のどこかに確かに存在するという背筋の寒くなるような現実。(もちろん某国を肯定するつもりは一切ありません。ミサイルこわい。)
 あーおもしろかった!

 あとから冷静に考えれば矛盾と呼べるようなものはいくつかあっても、それを考える余裕すら与えずに最後まで爆走していく物語でした。ここまで勢いよくやってくれたらもうだいたい納得できます。満足です。
 平野さん目当てで観ましたが、最終的には全員好きになっちゃうタイプの話だったのもよかったです。
 こにせくんなんて2ndルドブキ以来で、頼りない子犬のようだったのに素敵な俳優さんになっていました。リンリンとの思い出のシーンはとにかく泣かせる。わかりやすいシーンをわかりやすく演じてくれる素晴らしさ。

 三大老は全員さすがで、真面目な長台詞の応酬と笑いの緩急ね。
 「核実験でもやるとするかー」の言ってることとやろうとしてることの重さの噛みあわなさ、投げやり感の絶妙さ、コバケンさん以外で再生できない。
 フロム役の加藤啓さん、鏡子センパイとかキワモノばかりの印象があるので等身大の男性がすごくかっこよかったです。
 六角さんはどこかで聞いた声だと思ったら幽霊さんでした。トートのラップもおもしろかったし、最初から冷静に狂っている感じが素敵でした。

 お笑い芸人さんやアイドルちゃんなども、予備知識なしでもちゃんと見分けられる&個々に感情移入して泣いちゃうくらいのキャラの立ち方。
 特に姫にきつく当たられる侍女のベラと、ベラの幼馴染のサカイ!
 望まない祝福のために踊らされるベラが悲しくて美しくて本当につらくて泣きました。サカイのあの真面目な告白、あんなの絶対好きになっちゃうし、告白してきた姫に調子を合わせてでもガーベラを守るっていう愛が本当にかっこよかった。姫にブスって言っちゃったけどそれもガーベラを守るためだものね。

 「お受験控えた娘」のために公務員的ふるまいを続けるピノも憎めないですね。最後まで一切改心しないで安定した給与のためだけにフロムについていくところがいい。
 登場人物みんな筋が通ってる話はいいものです。現実にはそんなふるまいは難しいだけにね。

 途中の映像はちょっと長いかなと思いましたが強烈でしたね。サカイが死を意識したときの(?)サイケな映像表現が特に圧巻でした。炎とガイコツのアニメ的表現はともかく、そのあと何かの門が開いてしまって、細胞が混ざり合いながら音楽に徐々にノイズが混じって混沌としていくのが身体の機能を失いながら死んでいってるようでこわかったなぁ。
 あとセブンが死んでいくシーンで寒いよ暗いよって言うところも最高にリアルで怖いですね。なぜあの子があんなにちゃらんぽらんなのかは、最初は分からなかったんですけど、2回目からはクローンだから壊れているのかなと思いました。セブンって七番目ってことかな。ファイブ(前説にしか出てこない子)もおそらくはトートの思想を強く継いで狂ってるけど、セブンはさらに壊れてる。命を弄んだ結果を表現しているのでしょうか。
 でも一応は命と意思のある人間であるリンリンを、あの場の誰も救わないのは愛がなさすぎぎてこわかったですね……。勝手に生み出されたクローンなのにあまりにもかわいそうでした。雑な言葉と性格だったけど、シャリ王に寄り添ってあげるシーンが普通にほほえましかっただけにつらかった。
 龍の国(中国)、氷の国(ロシア)、星の国(アメリカ)、電磁パルス攻撃などのきわどいワードが刺激的でした。
 こんばんワニ、さよなライオン(「おはようございまスズメ」はいない)、ワニの映像どこかで見たおぼえが…?と思ったらACのCMのキャラクターだったんですね。
 そう思うと震災直後のみんなが傷ついていた頃と、王国とは少し似ているところがあるのかもしれません。
 ひりひりした気持ちを思い出しながら愛について考える、なかなか年の瀬にぴったりな作品でした。
 2017年12月という世相だからこそできた内容だと思うので再演は希望しませんが、家城啓之×平野良の作品はまたぜひ観たいです。


*1:ネクラの対義語

*2:切ない気持ち空に投げたオレンジ