ドルフィンウォッチング

観劇や推しの活動の個人的なメモ。

この民谷伊右衛門がすごい!~東海道四谷怪談~

 砂岡事務所プロデュース「東海道四谷怪談」、観てください。おもしろいです。
 役者・平野良が気になっている方、名前は知ってるけど演技は観たことがないという方、おすすめです。
 なにより以前は好きだったけど最近観てないな、という往年の平野良ファンの方には特に観ていただきたいです。

 伊右衛門に限らず他の役者さんの熱演も素晴らしく、二時間あっという間で楽しく見ることができます。
 よみうり大手町ホールで3月25日まで上演されています。
 →砂岡事務所プロデュース『東海道四谷怪談』



 さて、伊右衛門です。
 クズです。チンピラです。DV野郎です。たぶんスケコマシ。
 どのくらいひどいかはWikipediaなどをご覧ください。

 簡単に人を殺すし、人に罪をなすりつけるし、盗むし、義理より欲望を優先させるし、女性の扱いもひどいし、いいところはありません。
 けれどもなぜか憎めない。
 悪い男なんだけれど、魅力的です。

 私はオラついた人って全然好きじゃなくて、娯楽でも実生活でも距離を取りがちなのですが、この伊右衛門には自分でも驚くほど惹かれます。
 なんていうか、抗いがたい色気があるんですよね。
 それは伊右衛門という役柄自体が持っているものと、33歳の平野さんが本質的に持っているものと、演技を通じて見せつけているものとが、うまく合わさった結果なんだと思います。

 たとえば、具合の悪いお岩に薬を渡すときに、目の前にいるのに床に落とす場面。あの冷たさ。普段ならドン引きするところですが、「なにあれカッコイイ……」ってなってしまったのでかなり重症。
 赤ん坊がよく泣くのに苛立って「これだから素人の女は」みたいなことを言うのも好き。玄人女をしょっちゅう買ってそうですもんね。きっと遊びの相手にもモテるんでしょうね。自分で中田氏しておいて女のせいにするのって最高にクズですよね。素敵。

 そして、普段お岩には冷たいのに、死んでしまったあとに必死に名前を呼び続ける姿や、夢の場で口説き落とそうとする、あのいじらしさ。
 最高です。

 夢の場はこの舞台で一番好きなところです。
 夢みたいな夢、伊右衛門がお岩のことを確かに愛していたという分かりやすさ、でも夢でしかない切なさ。
 酒を飲み交わす二人の距離が徐々に縮まって、やがてお岩は気持ちを許して伊右衛門にしなだれかかり、そして口づけを……というゆったりとした流れ。その深み。美しくて切ない。ずっと心に残っています。
 前半で「地獄(=マッサージ屋を騙った売春宿)」の客と年増の娼婦が、下品に腰を振ったり股を広げたりしてみせるのとも対照的です。
 所作のひとつひとつが美しく、直接的な表現をしないがためにかえって隠微な色気が出るという素晴らしい場面でした。

 それにしても、キスしたあとにすぐに離れずに手をまわしたままオデコこっつんこするの、最高ですよね。
 ご本人が好きなのか時々やってるのを見ますが、今回は特に情景に合っていました。
 美しい横顔が拝み放題ですし、なにより選ばれしイケメンにしか許されない仕草なので、推しがイケメンで今日も最高だな!!!という強い満足感を得られます。

 それから今作は衣装もすごくいいんですよ。洋装、和装の2パターンあります。
 セットや言葉遣いなどは同じですが、小道具も変わってくるので違いが面白いです。

 個人的には洋装の方がお気に入り。
 伊右衛門の白パンツ、白ジャケット、派手なシャツ、ほんと最高でした。文句なしにかっこよかった!
 シャツは赤で柄も入っているのでチンピラ丸出しの下品な恰好なんですけど、浮かずに似合ってしまうんですね。不思議です。
 洋装+日本刀でチンピラ度マシマシなのも◎。
 セットや小道具に近代的なものが混じっているので、昭和の任侠映画のような、荒廃した近未来設定のアニメのような、チープでキッチュな世界観に仕上がっています。

 和装の方はシンプルな薄手の着物なんですが、こちらはサービス精神がすごいです。
 たくさん肌蹴ます。脛なんてしょっちゅう見えてるし、胸元もガバっと開くし。腰回りがピタっとしてるので、お尻の小ささを堪能したいのなら断然こっちですね。胸のホクロも言わずもがな。
 ただ、帯はきつめにしてあってもすぐゆるくなっちゃうみたいで、立ち回りの後とかしょっちゅう締めなおしてるのが見てて気になりました。
 ちなみに着物の中、上はよく見えませんでしたが、下は短いズボン下(ボクサーブリーフより少し丈の長め、二部丈くらいの黒いインナー)を穿いてたのでポロリはないです。他の役者さんも同じようなの穿いてました。
 あと目の下の赤ラインが婀娜っぽかったです。
 チークとかリップとかは控えめ。目元がえっちなのはハンサム落語くらいなので、珍しくて嬉しい!
 和装でこれに気づいて、洋装のメイクもちゃんと見とけばよかったーって思いました。洋→和で観たから、洋の時は全体を追うのに精いっぱいでした。

 和洋共通で、煙草を吸う仕草があるのもチンピラ度が高くていいですね。
 なによりあの形の整った薄い唇で煙草を挟む様は、それだけで素晴らしいものです。落とさないように唇の端で咥えてみたり、さりげなく火の始末をして煙草入れに戻すところもいい。

 これだけチンピラ連呼してますが、伊右衛門は浪人ということで町人とは身分が違います。ただ粗野なだけじゃないんですね。
 そのあたりの絶妙なオーラも確かに感じとることができました。ちなみにこのオーラ、兼ね役である薬売りの藤八のときには一ミリも出ていませんのでさすがです。

 殺陣は、派手に斬る場面もあるものの、ゆっくりめで形を重視したものが多め。動きがよく見えました。のっけから舅を殺すところの滅多切りっぷり、「ヒデヨシ」みっちゃんばりに刀をグリグリ差し込んでます。
 最後には自分も同じように斬られちゃうんですけどね。すごく痛そうに神経ぎったぎたにされてる感じに刺されます。
 あの手この手で生き延びた伊右衛門が殺されてしまう悲しさと、怨霊から解放された安堵感と、正義の復讐が果たされたスッキリ感と。
 そして寄り添うお岩さんの亡霊がまた悲しい。伊右衛門の躯に重なって泣いている姿は、やっと憎い相手が死んで嬉しかったのか、伊右衛門を恨めども愛していたので命までは取るまいと思っていたからこその悲しみか……。余韻のあるラストシーンでした。

 と言うわけで、全然物語には言及できてませんけど、平野伊右衛門がどれだけ好きか書きました。


 この舞台を観終わったあと、あまりにも感動してしまって、伊右衛門は今まで見た舞台の中で一番好きな役かもしれない!と思いました。
 舞台全体としてもかなり好きな部類に入ります。
 歌わないし踊らないし心躍る浪漫があるわけでもないのに心をつかんで離さないのは、人間くさい不幸な役柄がどうしようもなく推しに似合ってしまうからだと思いました。

 それから、誤解を恐れずに申し上げれば、推しの成長を確かに感じることができる作品でもありました。
 推しらしさはもちろんあるんですけど、エンターテインメントとしての分かりやすい演技をしていて、かつ演技が嘘にならないという鮮やかな仕上がり。経験の少ない古典といえども揺るがず、舞台の屋台骨として骨太な演技をしている印象を受けました。
 推しの演技に関しては、その人を必死に生きようとするあまり物語から逸脱しかねないと思わせる部分があったのですが*1、今回はそういうことが一切なかったです。
 このあたりは去年の「シスター」や、先日の「キャストサイズプラス」のインタビューからも感じました。
 そんなわけで、昔推しのことが好きだった人には、ぜひ観ていただいて感想を聞いてみたいなと思ったのでした。

 他の俳優さん&登場人物についてもたくさん書きたいので、後ほどまとめたいと思います。


2018/03/18 砂岡事務所プロデュース「東海道四谷怪談」
日程:2018年03月18日
会場:大手町 よみうり大手町ホール
開演 13:00 / 18:00
終演 15:10頃 / 20:10頃(休憩なし)

出演者:平野良白又敦桑野晃輔、北村健人、今川碧海、白瀬裕大、水貴智哉、田渕法明、土倉有貴、なだぎ武、植本純米(敬称略)
entre-news.jp

*1:真っ先に思いつくのがメサイアの堤嶺二さんで、推しの色が強すぎたんじゃないかなって心配になります。当たり役なので余計なお世話でしょうが。